後立山(長野/富山) 蓮華岳(2798.7m)、針ノ木岳(2820.7m)、小スバリ岳(2740m)、スバリ岳(2752m) 2023年5月27日  カウント:画像読み出し不能

所要時間 1:34 扇沢市営駐車場−−1:40 登山口−−1:54 林道入口−−2:01 残雪に乗る−−2:30 大沢に入る−−3:06 右俣に入る(標高1900m)−−5:15 稜線(2730m鞍部)−−5:27 蓮華岳 5:46−−6:20 針ノ木峠−−7:13 針ノ木岳 7:46−−8:00 ヤマクボノコル 8:02−−8:12 小スバリ岳−−8:18 スバリ岳 8:20−−8:31 ヤマクボノコル 8:38−−8:46 立ち話 8:55−−8:58 ヤマクボ沢出合−−9:16 最終堰堤−−9:28 林道−−9:43 車道−−9:57 登山口−−10:02 扇沢市営駐車場

場所長野県大町市/富山県中新川郡立山町
年月日2023年5月27日 日帰り
天候曇後時々晴
山行種類残雪期の一般登山
交通手段マイカー
駐車場扇沢駅直下の有料駐車場より下に市営無料駐車場あり。ただしハイシーズンには早朝に満車になるので注意
登山道の有無大沢及びヤマクボ沢以外はあり。ただしこの時期はスバリ岳〜針ノ木岳、針ノ木峠〜蓮華岳以外の登山道はほぼ全て残雪に覆われてルート不明
籔の有無無し
危険個所の有無大沢、ヤマクボ沢、針ノ木峠〜針ノ木岳間は雪の急斜面があり滑落注意。10本爪以上のアイゼンとピッケルが必須
山頂の展望各山頂とも晴れれば大展望
GPSトラックログ
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コメント残雪があるうちに大沢経由で蓮華岳に初挑戦。篭川右岸は雪解けが進んで藪の中の薄い踏跡を辿ったが、下山時に見たところ左岸の方が残雪が多く最初の堰堤を越えたら左岸に渡った方が良かったかもしれない。大沢出合付近は雪が消えていたが藪は無く、大沢右俣は予想通り急傾斜の連続で上部は雪壁状の区間があり、雪が締まった時間帯は滑落のリスクがかなり高い。針ノ木峠〜蓮華岳間は夏道が出ていてアイゼン不要。針ノ木峠〜針ノ木岳は明瞭なトレースが刻まれていて歩きやすかった。針ノ木岳〜スバリ岳間は針ノ木岳直下を除いて雪無し。ヤマクボ沢はまだまだ残雪が多かった。この日は夏のように北アルプスの稜線に雲がかかって展望は良くなかった


小スバリ岳から見た蓮華岳と針ノ木岳。夏のように稜線にかかる雲が多く、山が見えている時間は長くはなかった


ゲート横から登山道へ 鳴沢出合で最初の残雪
大沢に入った。最初は雪無し 標高1800m付近でアイゼン装着
標高2270m付近。急登の連続 標高2300m付近。左の谷へ
標高2520m付近。左の谷へ。最後はヤバそうな傾斜 標高2600m付近。写真では分からないが雪壁に近い傾斜
標高2630m付近。少し傾斜が緩むがまだ急 登ってきた大沢右俣を見下ろす
稜線直下 2730m鞍部で夏道に出た。山頂はガスっている
蓮華岳への最後の登り。ガスが切れた! 蓮華岳山頂(西の肩)
蓮華岳山頂(東の肩=三角点) 蓮華岳から見た北葛岳
蓮華岳から見た西側の展望。北アルプス主要部は雲がかかって見えない
蓮華岳から見た東側の展望。こちらも雲が多い
針ノ木岳に向かう 場所によっては新雪が積もっていた
登ってきた大沢右俣を見下ろす 2754m峰への登り
2754m峰から見た針ノ木岳 2754m峰からの下り。夏道が出ている
針ノ木小屋 針ノ木峠。蓮華岳からここまでアイゼン不要だった
針ノ木峠から針ノ木雪渓を見下ろす。人影無し 針ノ木岳へ登り返し。足が重い
テント場は一か所だけ雪が消えていた 雪渓上の人影
標高2570m付近。しっかりしたトレースが刻まれている 標高2660m付近
標高2730m付近。完全にガスの中 標高2750m付近で尾根に乗る。ガスが薄まってきた
雪壁はまだ健在だった。けど大沢右俣より傾斜は緩い 雪壁を越えれば山頂は目前
針ノ木岳山頂 針ノ木岳から針ノ木雪渓を見下ろす
針ノ木岳から見た立山、剱岳。今日は山に雲が絡んでいる
針ノ木岳から見た北側。こちらも雲が多い
針ノ木岳から見た東〜南側。雲が一番薄くなったタイミングで撮影
次はスバリ岳へ向かう 左の残雪を避けて岩稜を下ってみた
ここで尾根上を進めなくなり西へ。結構危険だった 下ってきた岩場
夏道に乗る ヤマクボノコル。ここに荷物をデポしてスバリ岳に向かう
ヤマクボ沢を登ってきた人影 ズームアップ。スバリ岳からの下りですれ違った
スバリ岳方面は残雪は皆無 早くもコメバツガザクラの蕾発見
小スバリ岳とスバリ岳
小スバリ岳山頂。背景は針ノ木岳 小スバリ岳から見たスバリ岳
小スバリ岳から見たガスって見えなかった東を除く展望(クリックで拡大)
スバリ岳への登り スバリ岳山頂
スバリ岳から見た360度パノラマ展望写真(クリックで拡大)
スバリ岳から見た赤沢岳の稜線。ほとんど雪は無い スバリ岳北側を巻く場所だけ雪が残る
スバリ岳から見た黒部湖 スバリ岳から見た小スバリ岳、針ノ木岳
ミヤマキンバイの葉。さすがに花はまだ先 スバリ岳から下る途中から見た針ノ木岳
デポした荷物 ヤマクボ沢に入る
カールを見上げる 針ノ木峠〜針ノ木岳のトラバース区間に人影無し
ヤマクボ沢をどんどん下る 針ノ木峠に向かう登山者の列
ヤマクボ沢を見上げる。大沢右俣よりは傾斜は緩い 雪が消えた所に人影あり
スキーヤーが板を担ぐ準備中だった ヤマクボ沢下部
間もなくヤマクボ沢出合 ヤマクボ沢出合から下流を見ている
ヤマクボ沢出合
標高2070m付近(ノドを下った直下) 標高2070m付近からノドを見上げる
標高2000m付近 標高1870m付近から上流を見上げる
標高1800m付近の夏道入口。残雪期はこのまま雪渓を下る 標高1740m付近
標高1700m付近。残雪は最終堰堤まで 最終堰堤(標高1690m付近)
最終堰堤を越えると右岸は灌木藪 オオカメノキ
エンレイソウ。灌木藪の中でたくさん見られた 大沢に出た
灌木の中の踏跡のような筋 次の堰堤(標高1640m付近)
堰堤を越えると再び雪が登場 赤沢からの雪渓が合流
標高1620m付近 次の堰堤。作業道の梯子はまだかかっていなかった
堰堤下流側の古い梯子が残雪期専用 作業道に乗る
林道終点 ネコノメソウ
キジムシロは最盛期。あちこちで多数咲いていた 鳴沢出合付近のみデブリの山が残っている
ベニバナイチヤクソウの蕾 オオタチツボスミレ
オオタチツボスミレ(正面) オオタチツボスミレ(側面)。距が白いのがポイント
車道に合流。この先は花が多い タチカメバソウ。初めて見る花だった
タチツボスミレ(正面) タチツボスミレ(側面)。距が花の色と同じなのがポイント
葉の形状からしておそらくキスミレ 花と葉の形状からノミノフスマらしい
ニリンソウ。駐車場でも多く見られた 登山口
ゲート 扇沢駅は観光バスで大賑わい
有料駐車場はガラガラだった 駐車場近くにもタチカメバソウの群落
ニョイスミレ(だと思う) ニョイスミレ(だと思う)拡大
市営第一駐車場(無料)は満車。第二駐車場はガラガラだった


 先週末は久々の白馬岳に登って大雪渓の残雪を堪能したが、今週末はどうしようと思案。幸いにも天気は良い方向であり北アルプスで問題なく、北ア南部でも後立山北部でも同じような予報で風も弱い。今年初の常念岳にでもと考えたが、せっかくまだ残雪があるので雪を楽しもうと大型連休に登った針ノ木岳に決定した。

 ただし今回は初めてのルートを試すことにした。大沢小屋の名前にある大沢で、蓮華岳からまっすぐ北に落ちる谷である。ネットを見ると山スキーでここを滑った記録がいくつも見受けられる。スキーで滑れるのだから歩く分には全く問題ないと思えるが、地形図を見ると等高線の密度が相当なものだ。ヤマクボ沢や先週の白馬大雪渓最上部から小雪渓に至る急傾斜が長い距離で続くようなものだろう。これだけ急な登りなので針ノ木峠経由で蓮華岳に登るよりはずっと短距離で済む。

 大沢は私にとって初めて使うルートであり、急傾斜によるリスクを考えると登りで使った方が安全だろう。ただし私の場合は夜中出発なので大沢を登るのは真っ暗闇の中。初見で暗闇の中を登るのはリスクが高いが、分岐点だけ見落とさなければ大丈夫だろうと判断した。最初に蓮華岳に登ってから針ノ木岳に登り、余裕があればスバリ岳に登り返してヤマクボ沢経由で下山の計画とした。

 金曜夜の早い時間帯に市営第一駐車場(無料)に到着。駐車場の入りは半分以下で金曜夜としては少ない。一番奥の場所を確保して酒を飲んで仮眠。気温は高めで長袖シャツにシュラフで適温だった。

 夜中1時前に起床。飯を食って1時半過ぎに出発。まだ駐車場は空きが多く、到着間もなくで車内灯が点いた車は皆無であり、土曜早朝にしては静かであった。大型連休が終わって残雪期としては半端な時期であるし、まだ夏山でもないので山のシーズンとしては端境期と言えるかもしれない。上空を見ると星は全く見えず一面雲に覆われているようだ。予報では明け方には晴れることになっているので期待しよう。晴に備えて日焼け止めの麦わら帽子を持った。

 明かりが煌々と輝くゲート横から登山道へ。まだ立ち木は芽吹いていないが地面には草の葉の緑が目立つ。ニリンソウの白い花はLEDライトの光でも目立っていた。今回も篭川沿いの冬ルートを使うために舗装された車道から未舗装の林道へ入る。橋を渡って鳴沢出合で山のようなデブリを越えて再び林道に降り立つと林道終点まで雪は無し。そこから最初の堰堤までもほぼ雪はなく、堰堤は右岸の古い梯子で越える。大沢小屋の営業が始まるとここにはアルミの立派な梯子がかかるが、その梯子はまだ堰堤の上流側に横たわっていた。

 堰堤を越えると一時的に残雪が現れるが次の堰堤を越えると雪が無く、灌木藪の隙間を縫って右岸を上がっていく。そろそろ大沢のはずだが前回は雪がたっぷりあったので様子が全く異なっていた。しかし大沢は水は流れていなかったが石がごろごろ転がった典型的な河原であり、意外と簡単に判別できた。それに大沢以外はずっと斜面が続くので篭川沿いに進むしかない。

 大沢に入るがしばし雪は無しでこの先が心配になる。ネットの記録では例年では6月中旬くらいまでは雪がつながっているはずだが、今年は例年より1ヵ月くらい雪解けが早いのが気がかりだった。下流で雪が無いのはいいが、途中で雪が無いと沢の様子によっては登れない可能性がある。しかし標高1690m付近で豊富な残雪が登場し、広い沢いっぱいに埋め尽くしていて一安心。標高1800m付近からやや傾斜が出てきて足元が滑るのでアイゼン装着。気温が高いので雪はガチガチではなく少し緩みがあるので、急な雪面でもそこそこ安心して取り付けそうだ。

 大沢は標高1880m付近で左右に大きく分かれるが、ネットの記録では全て右俣(西側)の谷を利用しているのでそれに倣う。残念ながら真っ暗闇の中で広い谷の端から端まで光は届かないので、高度計を見ながら近付いたところで雪渓の左岸付近を歩くようにした。これで自然に右俣に入れるはずであるが、現場に至っても谷が広くてライトが届く範囲では谷が分岐しているのかどうかすら分からなかった。仕方が無いので方位磁石を取り出して進行方向を確認。右俣に入っていれば真南より僅かに西寄りに上がっていくはずで、まだ谷が広い区間の数か所で確認したらその通りで一安心。

 右俣に入って谷の幅がそれまでよりも狭まるが、ヤマクボ沢よりは広くて雪の量も十分にある。標高2400m付近までは谷はほぼ一直線で暗闇の中を登っても迷うことは無かった。傾斜はそれなりに急で所々でデブリの押し出しがあるが、概ね歩きやすい雪面であった。落石は皆無とは言わないがそれほど多くはなく、針ノ木雪渓と同程度か。迷いやすい場面に遭遇することなく周囲が明るくなってきた。

 標高2380m付近で谷が二分するが傾斜が緩い左を選択するのが自然であろう。本流は左である。ここから傾斜がきつくなり左太腿上面に痛みが走る。ここは先週の白馬岳でも痛みが出た場所で、軽度の肉離れでもしたのではないかと思えるほど。傾斜がきつく筋力を使う場面で痛みがひどくなるため、歩幅を狭めたりジグザグに登って傾斜を緩めたりと対応する。まだジグザグに歩けるのだから傾斜がきついと言っても雪壁ほどではない。本当の急斜面ではまっすぐ登ることしかできなくなる。

 標高2550mを越えた所で再び分岐が登場。左側の方が傾斜が緩いのでそちらに向かうが、その上部は斜面が立ち上がっていてさらに傾斜がきつい。おそらくそこが最大傾斜だろうと思われた。その区間に突入すると巨大な雪壁状態であり、通常の急雪面ではピッケルのピック部分を雪面に打ち込んで安全確保するが、ここはあまりに傾斜が急でピッケルのブレードを雪面に打ち込んでちょうどいい具合で完全に雪壁状態。ヤマクボ沢や白馬大雪渓の最大斜度を完全に越えていた。それでも今日は曇り空で放射冷却が生じなかったからか、雪質は適度に緩んでピッケルが深く刺さるし、ピッケルが無い片手も雪面に突き刺すことができるので"4WD"で支点を確保できたので条件はいい方であろう。しかし体力的にはかなり厳しい登りだった。

 最大斜度を越えてもまだ稜線まで急傾斜の部類で、ピッケルで安全確保しながらジワジワと登っていくが、もう谷ではなく左右にずっと同じ傾斜の斜面が続いていて全面が雪に覆われている。大沢を見下ろすと先ほどの最大傾斜のすぐ下側は見えず、もっと下流の雪渓が見えていた。蓮華岳の稜線は目の前だが山頂付近はいやらしいことにガスがかかっている。予報ではそろそろ晴れている時間なのだが。頭上も暗い雲に覆われたままであり、今日は展望は期待できそうにない。

 最後は蓮華岳山頂方面にやや進路を振って2730m鞍部の僅か東側で稜線の夏道に出た。前回はこの付近の夏道は雪に埋もれて見えなかったが、今は半分くらい夏道が出ていた。もうアイゼンは不要なので外し、西寄りの風があるので若干の防寒装備を付けた。ここまでの急雪面では運動量が多く発熱も多かったので半袖で行動していたのだった。

 残雪があるのは鞍部付近だけであり、蓮華岳への最後の登りにかかると砂礫の夏道が出ていた。夏場はコマクサなどの高山植物があるが今の時期はまだ何も生えていない。ラッキーなことに先ほどまでかかっていたガスはいつの間にか切れてきたが低い雲が多く、すぐ南に見えるはずの常念山脈でさえ雲に隠れて見えなかった。東の空は一面の雲に覆われて日の出直後の太陽は見えないし、志賀高原の山々どころか大町と長野市を隔てる山々も見えなかった。

 ジグザグの登山道を辿って祠がある蓮華岳山頂の西の肩に到着。西半分の展望写真を撮影して三角点がある東の肩へ向かう。三角点から見える蓮華岳東尾根の残雪は大型連休よりも確実に減っていた。爺ヶ岳よりも北側の後立山は雲で見えない。大型連休から先週末までは雲が出ていても上空の高い雲で稜線はすっきりと見えていたが、今週末は夏場のように雲が低い位置にあり稜線に絡んでいる。気圧配置の影響で南から湿った風が入っているのが原因で、そろそろ梅雨入りも近くなってくるのでこんな天気が増えてくるだろう。

 蓮華岳山頂で短い休憩。雲の隙間から日差しが出ることがあるが日差しが無い時間の方が圧倒的に長い。それでもあまり寒さを感じないので気温は高いのだろう。湿気が多いのも体感的な温かさの一つの要因かも。

 左腿の痛みが気になるが次は蓮華岳へ向かう。針ノ木岳は山頂に雲がかかったり出たりしていて到着時にガスがかかっていないかどうか微妙な情勢だ。針ノ木峠に到着した時点で蓮華岳への登りに足が耐えられそうになかったら針ノ木雪渓を下ることにする。今のところきつい登りで痛みが出るが下りではそれほどでもない。

 蓮華岳〜針ノ木峠は大型連休の時でも針ノ木峠近くしかアイゼンは出番が無かったので、今日は峠までアイゼンは不要かもしれない。2754m峰てっぺん付近は残雪が覆っているが傾斜が無いのでツボ足で問題なし。2754m峰から先は完全に夏道が出ていて針ノ木峠までずっと夏道を歩くことができた。

 針ノ木峠は無人で見下ろす雪渓にも見える範囲に人影はなし。まだ針ノ木小屋は営業前で窓は雪囲いがされたままで小屋の北側は屋根のすぐ下まで雪が残っていた。でも小屋の南側は雪は消えている。

 ここからは針ノ木岳までの登り返し。考えてみたら残雪期の針ノ木岳はいつもヤマクボ沢を登って反時計回りに周回していたので針ノ木峠から登るのは初めてである。今のところ左腿の痛みは軽減していて登れそうなのでこのまま針ノ木岳を目指す。

 最初は夏道が出ているが標高2570m付近から雪に乗りアイゼン装着。ここから見下ろす針ノ木雪渓には3人の姿が見られたが、この距離ではここまで1時間以上はかかりそうだ。雪の上には明瞭なトレースが残っていて、輪郭の明瞭さからして昨日か一昨日の足跡と思われた。一人のものとは思えない幅のトレースであり平日でも入山者が結構いるようだ。標高2600m付近からガスの中に入ってしまうが勝手知ったるルートであるしトレースが明瞭なので視界が制限されても問題なし。大型連休には直上を通過した岩はもう雪が無いので北を巻いていた。トラバース区間の傾斜はそれなりに急ではあるが往路の大沢右俣に比べれば緩やかに見えてしまう。

 標高2750m付近でトラバースが終わって稜線上に復帰するとガスが薄まってきたような。少し登って雪壁直下に来ると明らかにガスが薄まって青空が見えてきた! どうやらここが低い雲の上端でそれを突き抜けたようだ。雪壁は大型連休よりも雪解けが進んで傾斜が少し緩くなっていたが、この雪壁よりも大沢右俣の方が傾斜がきつかったのは驚きだった。

 雪壁を突破すれば針ノ木岳山頂は近い。短い夏道を登ると雪が消えた針ノ木岳に到着。相変わらず低い雲が北アルプスの稜線にかかっているが山頂は日差しがあった。西側の五色ヶ原〜立山付近が最も雲が少ないが、その他の山々はほとんど雲に隠れてしまっている。蓮華岳も今は雲の中だ。西寄りの風があるので岩陰で休憩。

 休憩を終えて針ノ木岳〜スバリ岳間鞍部のヤマクボノコルへと下っていく。この間はほとんど雪は残っていないが稜線西側を巻く場所の一部に雪が残っているのが山頂から見えていた。そこは前回歩いた時は雪+氷でカチカチで滑りやすく滑落に注意が必要だった場所。今回もアイゼンが必要かもしれずアイゼンの着脱が面倒なのでここは稜線の岩場を下ってみることに。最初は特に危険は無いが人が歩かないので表面に地衣類が付いているようで妙に滑る岩があるので要注意。夏道に残雪がある区間を越えて岩尾根が痩せて直上を進めなくなり、西側直下の夏道に下ることにしたが、ここが危険箇所だった。凸凹はそれなりに多くて手掛かり足がかりは多いが浮石が多く、傾斜が急で万が一落ちれば軽傷では済みそうにないので時間をかけて慎重に行動。これならアイゼンの脱着が必要だったとしても素直に夏道を歩くのが正解だった。

 登山道に降り立ってからはヤマクボノコルまですぐだった。東のカールには一人の姿が。帰宅後に写真を整理していたら針ノ木峠近くから雪渓上に見えた3人のうち先頭の一人であった。こうやらこの日はこの人が私の次に稜線に達した人のようだった。おそらくコルに上がったら針ノ木岳を目指すだろうからすれ違うことはないだろう。

 ヤマクボノコルから僅かにスバリ岳側に上がった場所で荷物をデポして空身でスバリ岳に向かうことにした。針ノ木岳山頂から見た限りではコルからスバリ岳まで雪は全く無いようだったので、ピッケル、アイゼンもデポしてほぼ完全空身。僅かな防寒装備だけ持った。

 登山道は主に稜線直上か岩稜の西側を巻いているので残雪がありがちな東斜面を巻く箇所はなく、見たとおりに全く雪は無かった。雪は無いもののまだ花のシーズンには早いので何も咲いていないと思いきや、ほんの僅かだがコメバツガザクラの蕾が膨らんだ株があった。ミヤマキンバイは葉っぱが出たばかりの様子。最も早い花が咲くのは2週間後くらいだろうか。

 登り切った最初のピークが小スバリ岳だが登山道は僅かに西側を巻いてしまうので、登山道を離れて山頂へ向かう。岩が積み重なった緩い斜面なので簡単に山頂に立つことができる。森林限界を超えているので雲がかかっていなければ展望がいいのだが。

 登山道に戻ってスバリ岳へ。ガレた南斜面をジグザグに登って山頂に立つ。登山道はこの先の赤沢岳方面は北斜面を巻くように下っていくので残雪の中に埋もれていた。北斜面にある区間はおそらく広範囲に雪に埋もれているのだろうが、その先の稜線はほとんどが夏道が出ているのが見えた。山頂で写真撮影して即下山開始。

 小スバリ岳からヤマクボノコルへと下っていると単独男性が上がってきた。その格好からしてカールのヤマクボ沢を上がっていた男性で、予想に反して針ノ木岳ではなくスバリ岳へと向かっていた。私と違って全装備を背負っていたので赤沢岳方面へと縦走する可能性もあるかな。

 コルで荷物を回収してカールへ一直線に下る。先ほどの男性の足跡があるので面倒なルート判断の必要が無い。下方に見えているヤマクボ沢出合から針ノ木峠方面へ登っている数人の列が確認できたが、ヤマクボ沢はこの先で傾斜がきつくなっているためカールの先は見ることができず、登っている人がいるのかは分からなかった。

 ヤマクボ沢は急傾斜であるが往路の大沢右俣と比較すればまだマシなので、雪が適度に緩んだ今の時間帯なら前を向いたまま快速で下ることができた。傾斜が最も急な区間が終わって左岸側に地面が出ている箇所で、山スキーヤーがスキーを担いで登る準備中だった。さすがにこの傾斜だと担いだ方が楽なのだろう。

 ヤマクボ沢出合まで下るとポツリポツリと登ってくる人影が見られる様になる。私のような歩きとスキーヤーの比率は半々程度。針ノ木雪渓の表面はまださほど荒れていないのでスキー向きと言えよう。白馬大雪渓と比較すれば落石も少ない。一時的に傾斜が増すノドを通過してからアイゼンを脱いで靴を滑らせながら下っていく。こんなことができるのもあと半月くらいかな。季節が進むと徐々に雪が固くなって滑り過ぎるようになるし、表面のスプーンカット化が進んで凸凹が大きくなりバランスを取るのが難しくなる。

 夏道入口を通過してなおも篭川の雪渓を下っていき、最終堰堤は右岸を高巻きして下流に下ると右岸側には雪が無くて根曲がり灌木藪。今年は雪解けが早いので藪が出ているのも早い。おそらく例年の残雪期なら雪に埋もれている区間のはずで、藪の中には踏跡が見られないので藪が薄いところを繋いで下っていく。藪の中にはたくさんのエンレイソウが見られたが、合戦尾根下部や白馬雪渓で見たのと同じく葉っぱのサイズが小さい。私が基準にしているのは蝶ヶ岳の三股コースで見たエンレイソウだが、もしかしたらあれは例外的に葉が大きかったのかもしれない。

 途中で二人組とすれ違ったが藪漕ぎでルートに不安を覚えたようだったので、このまま適当に左岸を進んで堰堤を越えれば雪に乗れると教えておいた。そこから少し下ると往路で歩いた水が無い大沢に飛び出して河原歩きで少しの間だけ藪から解放される。大沢から下流は何となくある薄い踏跡を辿って次の堰堤は古い梯子で作業道(大沢小屋荷揚げ道)へ降り立つ。そこから僅かな距離で林道終点だ。

 林道に入ってから道端に花が咲いていないか探しながら歩いていく。最初に目にしたのは花のような花でないような中心部が若草色の植物。帰宅後にネットで調べたらネコノメソウとのこと。ネコノメソウにも細かな種類があるが、写真を1枚しか撮影していなかったのでその中でもネコノメソウっぽいところまでしか判別できなかった。

 次に登場したのはおなじみのキジムシロ。ミヤマキンバイそっくりさんである。ただし生えているのは森林限界ではなく樹林帯の日当たりのいい場所(道路脇)などで、葉は三つ葉だけでなく5、7、9枚など奇数枚が混じるのが特徴。未舗装の林道脇や舗装された車道脇、登山道脇などあちこちで咲いていて、まさに花の最盛期だった。

 この他に見かけたのはタネツケバナ、ベニバナイチヤクソウ(まだ蕾)、ニリンソウ、タチツボスミレ、オオタチツボスミレ、タチカメバソウ、キスミレ、ノミノフスマ、ニョイスミレだった。ニリンソウ、スミレ類、タチカメバソウは駐車場付近でも群落が見られた。麓ではいよいよ春の花のシーズンであり、今後は花を探したり撮影したりする時間がかかるので、下山時の所要時間が延びるであろう。なお、相変わらずグーグルの画像検索による花の種類判定の高精度さには舌を巻く。今回初めて見たタチカメバソウ、ネコノメソウ、ノミノフスマも一発で出てきて、本当に判定結果が合っているかの検証をキジムシロでやってみたが、見事正解を含んだ回答を出した。最近はchatGPTの話題で溢れているが、ここ1年でのAIの進歩は目覚ましい。

 林道を下って舗装道路に出ると道端の花が多くなり、「脇見歩き」でショートカットする登山道入口を行き過ぎてしまった。大型連休中はゲート横の登山口に登山届記帳用のテントが設営されていたが今は無し。扇沢駅は大型バスで賑わっていたが有料駐車場はガラガラ。今は観光シーズンとしては端境期なのだろう。観光客は皆長袖を着ているが私は半袖で完全に浮いていた(笑) 無料の第一駐車場はほぼ満車だったが大型連休や夏山シーズンと違って駐車場入口の整理員の姿は無かった。第二駐車場はガラガラで、柏原新道登山口前の駐車場にも空きがあった。


 左太腿の痛みは下山時はあまり感じることはなかったが、翌日は平地を歩くのにも痛みが出た。筋肉痛のような広範囲の痛みではなく局所的な痛みで、これまで感じたことが無い場所、種類なので何とも気味が悪い。月曜日には感じなくなったが2週連続で山の登りで出たのは不安だ。来週は少し負荷を軽くしてみるかな。

 

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